「滝くん、その髪、暑くない? 結ばないの?」
「……それは、結んで欲しいってこと?」


質問に質問で返すのはずるいと思う。心の奥底に揺らめいた願望を見透かされたようになった気分になって思わず黙ったままでいれば、「そろそろ『滝くん』以外でも呼んでくれると嬉しいんだけどなぁ」なんて滝くんが飄々とした口調で続けた。追い打ちだ。意地悪だ。恋人という関係になってある程度の期間が経ったというのに、いつまでも滝くんのことを名前で呼べないことも、話題に事欠いて無難な会話しかできないことも、本当の欲望は隠してしまっていることも、全部ぜんぶ滝くんにはお見通しらしい。萩之介くん。想像の中ならいくらでも呼べるのに。

本当は綺麗な髪に隠れたその白い首に、耳に、手を伸ばして触れてしまいたい。どことなく他人と一線を引いているような彼の、その線の向こう側に行ってみたい。自分から踏み込む勇気はないくせに、好奇心だけが先に立つ。そんなこと、絶対に滝くんには言えないけれど。


「ばかだね、言いたいことは言えばいいのに。 手、貸してごらん?」


まるで私の考えてることぜんぶ分かってるみたいに、少しだけ目尻を下げて、滝くんは優しく言う。そして滝くんは貸してごらんと言って私の手を取って、自分の顔の近くまで引き寄せた。そのまま私の手の上から自分の手を重ねるようにして、自分の顔を包み込む。私は両手で滝くんの両頬に触れている形になって、心臓がぎゅっと苦しくなった。触れても良いよ。踏み込んでもいいんだよ、まるで滝くんにそう言われてるみたいだ。

私はばかだよ。でも、きっと滝くんだってばかだ。滝くんは私の好奇心を甘く見てる。そんな表情で、そんなことを言われたら、確かめたくなってしまうに決まってる。滝くんの頬に触れたまま「は、萩之介、」と呟けば、「ん?」と滝くんが嬉しそうに目を細めて微笑む。恐る恐る踏み出す一歩。その先にはきっと滝くんが両手を広げて待っててくれるのかもしれないね。
COLOR PALETTE #01 | Haginosuke Taki