最悪だ。こんなことって現実に起こるんだ。ヒール部分が根元からぽっきり折れてしまった靴を片手に、なかなかショックから立ち直れずに地面にぺたりと座り込んでしまって動かないままでいる私を見て、堺さんは自分の頭を掻きながら「そんなヒールの高い靴履くからだろ、あんまり慣れてないくせによ」とぶっきらぼうな口調で私に声をかけた。そうだけど、そうなんだけど。ただでさえ歳も離れてて、プロのサッカー選手として活躍もしてて、背も高くてかっこよくて、そんな彼に少しでも並びたいと、背伸びをせずにはいられない。意地を張って、何が悪い。


「女のプライドってか? おまえもめんどくせぇな」


呆れたように呟く堺さんの言葉に、いよいよ心が折れてくる。無駄にプライドばかり高くて、面倒な女で、ごめんなさいね。意地を張ったまま、だけど顔を上げることはできずに俯いたまま唇を噛んでいると、「……まぁ、いいけどよ。べつに」と溜息混じりの柔らかい声が降ってきた。その声に導かれるように顔を上げれば、私と目線を合わせるようにしゃがみこんだ堺さんが、正面から私を見据えていて。私と目を合わせた堺さんは、ふ、と空気を緩めるように笑った。


「仕方ねぇからそのプライドごと愛してやるよ」


そう言って堺さんは、小さい子供をあやすみたいに、その無骨な大きな掌で、ぐしゃぐしゃ、と私の頭を乱暴に撫ぜた。……ほら、今日もこうやって、私はいつまでも堺さんに敵わないのだ。
COLOR PALETTE #09 ○ | Yoshinori Sakai