暑いのう。暑いねぇ。そんな会話にならない会話をぐだぐだと続けたり、たまに黙ったり、また思い出したようにどちらかが喋り始めたり。無為に過ごす事のできる時間が私たちにはまだ膨大にあった。隣に並んで歩きながら、つい先程手に入れたばかりのアイスキャンディーに齧り付く。舌に乗る冷たさと甘さを味わいながら、ちらりと仁王の方を見やると、珍しく髪を縛らずに下ろしている仁王の髪が、俯いた彼の輪郭に沿って微かに垂れていて、あと少しで彼が舐めるアイスに付いてしまいそうだった。「仁王、髪につくよ」反射的に手を伸ばして彼の髪に触れ、そのまま彼の耳の後ろへとその髪をかければ、成されるままで大人しくしていた仁王は目だけでちらりと私を見て、「ん、」と目を細めた。……迂闊にも、可愛い、なんて思ってしまった。仁王なのに。


「髪、邪魔じゃない?縛れば?」
「んー、おまえさんが縛ってくれるなら」
「……縛りませんよ。ほら、アイス持っててあげるから」


縛ってくれるなら、と言ってこちらに襟足側をくるりと向けた仁王の頭を軽く叩いて、半ば奪うようにして仁王の手からアイスを預かると、「つれないのう」と仁王は何故か楽しそうにくすくすと喉を揺らした。何でそんなに上機嫌なのかよく分からないけど、こうやって両手に二人分のアイスを持ったまま仁王を見守っていると、面倒を見てる姉のような気分になってくるというか。「仁王ってなんだか弟みたいだよねぇ」思った通りのことをそのまま口に出してみれば、髪を結わえている仁王が、「……ほー? そうかの、」と少しだけ低い声で呟いた。

ん?今なんか、仁王、イラッとしてた? 気になったものの尋ねることができなかったのは、この暑さのせいで手にしていたアイスキャンディーが容赦なく溶け出していることに気付いたからだった。両手が塞がれているこの状態ではどうすることもできず、表面を伝う溶けたアイスが徐々に自分の指先から掌まで垂れてくるのを目で追うことしかできない。「 ちょ、仁王、早く、」 助けを求めて仁王の方を仰ぎ見れば、いつの間にかすぐ近くにいた仁王が、私の持っているアイスへと手を伸ばそうとしているところだった。ほっとしたのも束の間、仁王の伸ばした手はアイスの持ち手ではなく私の手首をゆるりと掴み、そのまま自らの方へと引き寄せたと思えば、私の掌に垂れていたアイスを、ぺろり、とひと舐めした。

言葉を失って固まっている私を仁王はちらりと見やり、「ざまぁみんしゃい」と言いながら舌をぺろりと出して、今度こそ私が預かっていたアイスキャンディーを引っこ抜いていった。立ち止まったまま動くことの出来ない私を置いて、仁王はすたすたと先に歩き始める。悔しかったので早足で仁王に追いついてその後頭部を軽く叩けば、ひどかぁ、と仁王はまた楽しそうに目を細めていた。何がそんなに楽しいのか私にはやっぱりよく分からないけれど、それ以外に分かったことが一つだけ。この手のかかる天邪鬼を弟扱いするのは絶対にやめようと心に誓った。
COLOR PALETTE #18 ○ | Masaharu Niou