気がつけば夜に暑苦しさで目覚めることも少なくなってきて、蝉の声が少しずつ静かになっていって、夏休みの終わりを指折り数えるようになって。そうして夏がいとも簡単に終わっていく。指の隙間から砂が零れ落ちるように呆気なく。私たちの夏は、今ここにしか無いのに。
「どうして触れないの」
絞り出したような問いかけは、自分で思っていたよりも苛立ちの色を帯びていた。私の質問に、浜田は一瞬だけ虚を付かれたように目を見開き、だけどいつものように誤摩化して目を逸らしたりすることはなく、そのままじぃっと私の目を見つめ返した。何も言わない浜田の表情が、今までに見たことのない静けさを纏っていて、自分からけしかけたくせに私は怖くて逃げ出したくなった。どれくらいの時間が過ぎただろう、私には永遠のように思えた一瞬の沈黙の後、浜田は視線は私を見据えたまま、少しだけ口元を緩めて、「大事だから」と言った。「 ……分からない」納得がいかずにそう駄々を捏ねる私に、浜田は少しだけ困ったように微笑んで、くしゃりと私の頭を撫でた。今はこれで勘弁してくれ、とあやすように。
「 俺も分からない。ただの意地かも」
「 そ、んなの、」
「……ごめん。俺、たぶんおまえのこと、ちゃんと手に入れたい」
困ったようにへらりと笑いながら、だけどしっかりと私の目を見つめたまま、浜田はそう言った。私たちがこうしているあいだにも、夏は少しずつ遠ざかっていく。いろいろなものを浮かれた夏のせいすることは、もうできない。「……ひと夏の恋になんて、してたまるか」 独り言のように呟いた浜田の声は、何も言うことのできない私の傍を通り過ぎて、去り行く夏の気配に滲んで溶けていった。
COLOR PALETTE #19
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| Yoshirou Hamada