「穴があったら入りたい」
「そういう事は私ではなく喜八郎に言えば良いだろう」
「……そういう意味ではないよ滝夜叉丸」


膝を抱えて座り込んだ姿勢はそのままに滝夜叉丸をちらりと目だけで見上げれば、彼は私の言いたいことが分からないとでも言うように、ふむ、と顎に手を当てて首を傾げていた。滝夜叉丸には、きっと一生分かりっこ無い。自分のことが恥ずかしくて、惨めで、消えてしまいたくて、どうしようもない、そんな私の気持ちなんて。そしてそんな情けない姿を、できることなら滝夜叉丸だけには見られたくないなんて思ってる、こんな乙女心も。何処かへ行って、放っておいて。さっきからそう強く願っているのに、口に出せずにいるというのはやっぱりそれでも私は彼に傍にいてほしいと望んでいるからなのだろうか。

先程から思考を巡らしていた滝夜叉丸は「やはり分からんな。つまりはお前には私に見せたくない姿があるということだろう?」と言いながら、座り込んだ私と目線の高さを合わせるようにしゃがみこんだ。彼はそのまま俯いた私の宙に揺れる髪に指先でそっと触れ、少しずつ言葉を紡いでいく。「私は他人に晒したくない己の姿など無い。……いや、語弊があるな。正確には、お前には、だ。」 自分に自信のある滝夜叉丸にはきっと一生分かりっこ無い、そう思っていたのに、彼の言葉の真意が汲み取れず、思わず顔を上げる。顔を上げた先には、少しだけ困ったように微笑む、滝夜叉丸の姿がすぐ目の前にあった。


「見ろ、お前にかけるにふさわしい言葉も見つけ出せず、右往左往しているみっともない男の姿だ」


このような私にお目にかかれるなど、相当に貴重な経験をしているのだぞ、お前は。どことなく拗ねたような口調で滝夜叉丸がそう続けるものだから、私は彼から目を離せなくなってしまった。そんな私を見据え、滝夜叉丸は触れていた私の髪をそのまま自らの口元まで持ち上げ、目を伏せて髪先に静かな口づけを落とした。頼むから機嫌を直せ、まるでそう告げるように。

そんなことを言われたら、あとちょっとだけ意地を張って、珍しい彼の姿をもう少しのあいだ堪能したくなってしまうじゃないか。そんな風にちらりと顔を覗かせた悪戯心は、滝夜叉丸本人には、やっぱり見せられそうにはない。
COLOR PALETTE #28 ○ | Takiyasyamaru Tairano