「今日のキミのラッキーカラーはオレンジだよ。という訳でお嬢さん、俺の傘にお呼ばれされない?」


何かいいことあるかもよ? そう言って胡散臭い笑顔を浮かべながら、隣に立った千石はこちらにビニル傘を差し出してきた。地面を強く叩き付ける豪雨のせいで灰色に染まる視野のなか、千石のオレンジ色の髪色だけがやけに鮮やかだ。生憎ラッキーカラーとやらを信じるたちではないけれど、天気が崩れるだろうと知っていたのに故意的に傘を忘れた私は、降りしきる雨を前に困ったように立ち尽くしているように見せかけて、千石に声をかけられるのをきっと待っていた。千石がそんな私の心境を知って声をかけたのかどうか、その真意は図りかねるけれど。


「いいことって、なに?」
「さぁ、なんだろうね」
「  ……千石は、何をしてくれるの?」


一瞬、千石は不意をつかれたように目を見開き、だけど次の瞬間にはいつものようにへらりと目元を弛ませながら、「 ……俺? 俺かぁ」と気の抜けた声色で喋り始めた。「まずはそうだな、傘が無くて困ってる君を俺の傘に入れて、家まで送り届けるよ。途中で雨宿りしながらお茶でもしようか、奢るよ? それとも、」空を見上げながらぺらぺらと思いつくままに話す千石に、なんだかとても苛立ちを感じて、「足りない」と、気がつけば口に出していた。「そんなんじゃ全然足りないよ、千石」 切羽詰まったように言う私を、千石はしばらく無言のまま見つめたあと、 ふう、と観念したように小さく息を吐き出した。


「……じゃあ、どうしてあげようか」


先程よりも幾分か低い声で、千石が囁くように呟いた。分かってるくせに。どうにだってしてくれていいのに。言葉にはせずに、こちらを見据える千石の瞳をじいっと見つめ返す。ラッキーカラーだから。傘を忘れたから。雨が激しく降っているから。ばかみたいな言い訳をたくさん並べて、今しかできないことをしよう。
COLOR PALETTE #30 | Kiyosumi Sengoku