こんな夜遅くに女の子一人じゃ危ないだろう。柔らかく、だけど芯の通った声が降ってきて、私は振り返る。でも、ホラ、私ボーダー隊員ですし、強いですし。ちょっとだけ険しい表情の彼に対して、もごもごと言い訳を並べようとしたら、じっと諌めるようなまっすぐな瞳で見つめられ、私は二の句が継げなくなる。「君のことどうにかしてくれ、って何人かにも頼まれたぞ」彼はそう言って少しだけ呆れたように微笑んだ。それを聞いて、どうせ私は問題児ですよ、とか、そうやって他人に頼まれないと忍田さんは来てくれないんですかね、とか、そんな偏屈な考えばかりが顔を出して、あぁ、私はなんてコドモなのだろう。そのなかでも最も幼いのは、こんな私である限り忍田さんは私に構ってくれるんじゃないか、なんて考えてしまう愚かな自分だ。


「……叱られたいだけのやつにいちいち応えてやれるほど、私は優しくないぞ」


そんな自分の考えが読まれてるかのように、忍田さんが、少しだけ静かな口調でそう告げて、私はびくりと肩を震わせる。忍田さんに叱られたい、正直そう期待してしまっているのも事実だ。だけどそれ以上に、呆れられたくない、嫌われたくない、見切りをつけられたくない、というのが本心。そんな思いがぐるぐると頭をめぐり、でもなにを言っていいか分からず、思わず縋るように忍田さんの目を見ると、彼は、ふは、と突然吹き出して顔を背けてしまった。


「……え、忍田さん…?」
「 っふ、悪い、君がすごい顔をしていたものだから、つい。 はは、」


肩を震わせて笑う忍田さんを見て、彼の台詞がどこまで本気かは分からないにしろ、彼にからかわれたのであろうことに今更ながら気付く。「忍田さんは、意地悪ですね」拗ねたようにそう言うと、忍田さんは優しく目を細め、だけど少しだけ意地悪そうに唇に弧を描いて、その大きな掌で私の頭をゆるりと撫ぜた。「……いつまでも君の『お目付役』でいたいわけではないからな」髪に触れられた状態のままそう告げられ、どういう意味か聞き返そうと目線を上げたところでぱっとその手は離れて行ってしまった。私だって、叱られたいだけじゃない、そうじゃなくて、もっと。今はまだ言えないけど、いつかそう正直に伝えてもいいですか、忍田さん。
COLOR PALETTE #02 | Masafumi Shinoda