雑踏に揉まれ、雑音を右から左に流しつつも、自分でも気づかないうちに私の心は少しずつ擦り減っていたらしい。彼の放つ光が眩しくて、前を向いて駆け出す彼の背中が遠くて、そうして私はいつの間にか自ら歩く速度を緩めていた。徐々に広がっていく彼と私の距離に安心と不安がごちゃまぜになった感情を抱きながら、ついに私の足は歩むのを止めてしまった。だけどそこですぐさま気づくのが嵐山だ。「? どうした、」「っ、振り返らなくて、いいよ」彼が振り返り不思議そうな表情で私の名を呼ぼうとするのを、反射的に声をかぶせて遮った。「嵐山なんて、前だけ見て、私になんて目もくれずに、すごい速さで走っていけばいいんだ」声が震えている。ひどい八つ当たりだと、自分でも分かっていた。これは嫉妬であり、焦りだ。
「………嫌だ 」
今まで聞いたことのないような、やたらはっきりとした静かな声色で、嵐山はそう言った。そう絞り出してから、彼はスタスタと私の方向へ歩き始め、あっという間に開いていた距離を縮めて、私の手を捕まえるように掴んだ。「おまえのことを置いていける訳ないだろう」言い聞かせるようないつもより強い口調で、少しだけ怒っているような表情で、彼は私の手を握る力をぎゅっと強くした。私は本当は知っているのだ、嵐山が、私や他の人たちを放っておけるはずがないこと。嫉妬や謂れの無い中傷に晒されても、ぶれない強さとそれ故のほんの少しの脆さを持っていること。大切なものを抱えながら走ることを止めない覚悟を持っているからこそ、輝いて見えるのだということ。
「おれが、おまえが欲しいんだ」
だからおまえには悪いけど、おれのわがままにもう少しだけ付き合ってもらうぞ。そう言って、嵐山は眉を下げてふにゃりと笑った。逃げられないよう私の手をしっかりと掴んだまま、だけどお願いするみたいな柔らかい声で。そんな彼だからこそ、私は彼の瞳から目を背けることは許されないし、止まった足を前に踏み出す他なくなるのだ。
COLOR PALETTE #05
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| Jyun Arashiyama