
「まぁね、確かに今日はやけにあっさりオッケーしてくれるなぁって思ったけどね?」少しだけ拗ねたように面白くなさそうにぶつくさ零しながら、羽風先輩が私の後を着いてくる。そんな彼の台詞を右から左へ流しながら私は歩みを進める。「あ、先輩。次ここのお店です」「はいはい、お目当ては?」「衣装に使うファー素材ですね」「えっと、そういうのは3階だってさ」羽風先輩は真っ先に案内板まで辿り着いて目的のフロアを指差してそう告げた。文句は言いながらも、大量の荷物を手分けして持ち(率先して重い荷物を持ってくれている、断ったのだが「こういうときくらい男を立ててよね」と通されてしまった)、私の意図を汲み取りさらりと案内してくれる。そういうところはやはりスマートだなぁと感心すべきか、女の子慣れしてるなぁと眉を顰めるべきか。
「あと残りはいくつ?」「あと残り1つですね」「ようやくラストかぁ〜」無事目的にものは入手し、先ほどまで居た店を出て、次の目的地まで移動を始める。買うべきものと寄るお店はもともとリストアップできていたので、予定より人手が増えた分、さくさくと順調に買い出しを進めることができている。おかげで早めに帰れそうだ。「あーあ、転校生ちゃんとせっかくデートできると思ったのに、買い出しとはなぁ」「私は何も言ってませんよ、先輩が勝手に着いてきたんじゃないですか」放課後そそくさと帰ろうとした私を引き止め、あれっ転校生ちゃんそんな急いでどこ行くの?俺も着いていっていい?と言ったのは羽風先輩だ。
「っていうかもともと一人でこんなに大量の買い出し済ませるつもりだったの?」
「 ? はい」
「やっぱり……君らしいけどさ、こんな大荷物、女の子一人じゃ大変だよ。もっと男連中に頼ればいいのに。Trickstarの奴らだってみんな喜んで手伝ってくれると思うよ?」
「 だから、ですよ。みんな練習頑張ってるのに、私の仕事に付き合わせる訳にはいかないじゃないですか」
そう答えると、羽風先輩は数瞬の沈黙のあと、「ねぇ、俺、甘いものが食べたいなぁ」と突拍子の無いことを言い始めた。「 えっ、」「ずっと歩き続けてへとへとだよ、休憩しないともう歩けない」「なに子供みたいなこと言ってるんですか、あと少しだから頑張ってくださいよ」「あと少しだからこそだよ。こんだけスムーズに回れてるんだもん。多少の寄り道する時間くらいはあるでしょ?」「まぁ確かにそうですけど、」「ねっ、お願い!」手を手を合わせて拝むみたいに眉を下げてお願いされて、荷物持ちを手伝ってもらってる罪悪感もあり、さすがに断りにくい。30分だけですからね、そう釘をさした上で提案に乗ると、やったぁ、と先輩は嬉しそうに笑った。こっちに美味しいパンケーキのお店があるんだよ、そう先導する羽風先輩の足取りは心なしか先ほどまでよりも軽い。
「買い出しも楽しいけど、ようやくデートっぽいことができるね」
俺はこうして転校生ちゃんと出かけられるだけで楽しいんだから、また呼んでよね? っていうか、また勝手に着いてくから、よろしくね。そう言って、どこか有無を言わせない口調で、だけどへらりとした気の抜けた笑顔を私に向け、羽風先輩はカフェへと足を進めていく。確かに、最近、あんまりゆっくりお茶とかしてなかったかもしれない。羽風先輩が変なことを言い出さなければ、自分一人じゃ選ばなかった選択肢に、むず痒さを感じつつも、それをどこか楽しんでいる自分もいる。……ちなみに、結果的に買い出しを手伝ってもらったお礼として先輩のぶんのカフェの代金を払おうとしたら先輩に怒られたというのは、これからあと一時間ほど後の話。
COLOR PALETTE #05
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| Kaoru Hakaze