なんでよりにもよってこの男が、こんなところに、こんなタイミングで。それが反射的にまず最初に思ったことだった。私はこの男がとても苦手だ。ふわふわとしていて掴みどころが無いし、不真面目でちゃらんぽらんだし、デリカシーも無い。なのに、何より、私はこの男の前で何故だか、うまく取り繕うことができないのだ。「あれ、どうした。泣きそうじゃないか」そう言って驚いたように目を丸くさせる太刀川の様子も、どこか面白がっているように見えて、腹立たしい。だけどそんな彼を見て、なんだか張りつめいていたものが緩むように、泣き出しそうになった自分が、いちばん腹立たしい。


「ぎゅってしてほしい?」
「 ……そういうの、聞かないで」
「でも、優しくしてほしいんだろう?」


反射的に太刀川の顔を見ると、彼は満足そうに口端をにやりと上げた。私は肯定することも否定することもできずに俯いて奥歯を噛む。そんな私を見て太刀川は、ふう、と小さく息を吐いて、片腕を伸ばして私の肩ごと引き寄せるように抱きしめた。「……まだ、なにも言ってないけど」「そんな物欲しげなカオしてよく言う」「っそんな顔してない」「はいはい、スミマセンデシタ。いいから黙って大人しく抱きしめられてろよ」言い返せなくて言葉に詰まる。くつくつと喉を鳴らして笑う太刀川の声が、私の耳のすぐ近くで響いて、くすぐったい。

べつにいいじゃん、弱ってるときに通りかかった男がたまたま俺だった、ってコトで。まぁ俺はおまえが自分の意思で俺に頼ってくれたら嬉しいんだけど?そうぺらぺらと喋りながら太刀川が私を抱きしめた片腕を頭に移動させ、ぽん、ぽん、とあやすように柔らかく私の頭を撫でる。太刀川の台詞がいちいち胸に突き刺さって苦しくて、「…いいから黙って抱きしめててよ」と呟くと、それを聞いた太刀川は一瞬の沈黙のあと、ふは、と吹き出して「はいはい、お望みのままに」と私を抱きしめる腕の力を強くした。そのあたたかさに何よりもほっとして、気がつけば私は涙を流していた。
COLOR PALETTE #14 ○ | Kei Tachikawa