理由なんて存在し無いに等しかった。何故そのような行為に至ったのか、我輩自身もよく分かっていなかった。ただ興味があったのだろう。が我輩に背を向けた瞬間に、その腕を掴んで自身の元へと引き寄せたのは無意識に近かった。 そして引き寄せた方のもう片方の手での顎を支え、その唇に我輩のそれを重ねるように押し当てた。 謎のような甘美な味はなく、ただ生温いだけ。不意を突かれて驚いたのか口を開いたの唇の隙間から、ぬるりと舌を忍び込ませる。 が声にならない声を漏らすのを無視したまま、そのまま歯茎や口内をなぞってやった。相変わらず味は無い。ただ、ざらりとした感触。人間のぬるぬるとした唾液が絡む。 我輩は眉間に皺を寄せながら唇を離し、手の甲で濡れた口元を拭った。


「……気持ち悪い」


思ったままのことを、そのままの形で口に出しただけだった。その瞬間、(この世界に来てからテレビというものでときどき見かける茶番劇かのように、) 我輩に平手打ちを喰らわせたかったのだろう、は勢いよく片手を振り上げ、――だがその手は、行き場を失ったかのように中途半端に とん、と我輩の胸を痛くも痒くもない程度に軽く叩いただけだった。


「じゃあこんなことしないで」


俯いたの表情は垂れた前髪に隠れてしまって見えなかったが、足元のアスファルトに何かがぽたぽたと零れ落ちていくのが分かった。 は、泣いていた。


我輩には何故が泣いていたのかが理解出来ない。気持ち悪い、と述べた感想に嘘偽りは何も無い。確かに気持ち悪くて不快だったのだ。 酔狂だ。何故人間どもはあんなことを平気で出来る。  腹は満たされないうえに、ただ胸が詰まるように苦しくなるだけだというのに。



そのぬくもりすら無味乾燥

(title by ミュシカ / 数年前のおはなしをリサイクル)