自分でも思っていた以上に冷めた声が響いて、ああ、私こんな声色出せるんだ、と我ながら少し吃驚した。だけどそれが嶺二を目の前にしてもまだ体裁を保とうとする強がりから出た声色であることを自分自身でも分かっていた。ずっと顔を合わせないようになんとか先回りをして避けていて、ついに避け切れなくなって本人を前に逃げようとしたところを腕を掴まれて嶺二にしては珍しく少し強い力で壁際に押さえ込まれた。「……本当に迷惑だったら早々に退散するよ。だけど、」逃がすつもりなんて到底感じられない体勢で嶺二が私の目を覗き込む。すべてを見透かしてしまう、嶺二の瞳だ。
「会えない、って言われただけで、会いたくない、とは言われてないからね」
そう言って、にっこり、いつものように柔らかく微笑む嶺二に、思わず奥歯を噛む。何事も無いように他人の機微を読む嶺二がこんな屁理屈みたいなことを言うということはつまり。その意図するところを察して劣等感が胸の奥からじわりと滲み出る。会いたくない、そう告げることができたらどんなに良かっただろう。嶺二に会わないことで自分を取り繕うとしたけど無理だった。会えないと言ってすぐに後悔したけど、自分の発言と覚悟をすぐに取り消すような愚かな女にはなりたくなかったのだ。会いたいなんて口が裂けても言えない私の意地と強がりを、嶺二はいつもひょいっと飛び越えて私を迎えに来てくれる。
「チャンがどう思ってても、僕は、君に会いたかったよ」
そう言ってふわり、微笑む。ほらまたすぐそうやって、いとも簡単に私の心を掬い上げていく。私だって会いたかった、その言葉は声にならないまま、だけど代わりにほんの少しだけ嶺二の胸元に顔を寄せる。先程より縮んだ距離に、頭上でふと嶺二が空気を緩める気配がした。
「 さて、お次はチャンの番だよ」
「 えっ」
「ただ僕がチャンに会いたくて、会えないって言った君の気持ちを無視して押し掛けたところまでは僕の我侭。だから次は君が我侭を言う番だよ。さぁて、ここで問題です。今日は何の日でしょう?」
あ、ホワイトデーってのも正解だけど、それ以外でね?そう言っておちゃらけた嶺二がウインクをひとつこちらに投げて寄越す。そのわざとらしい口調に思わず吹き出せば、嶺二は楽しそうににんまりと笑った。
「はいっ!10、9、」
「え、カウントダウン制なの、」
「そうそう早く言わないと時間切れだよ〜7、6、」
そう言いながら嶺二は近づいていた距離をさらに縮めて、数字を一つ数える毎に、私の身体に口づけを落としていく。5、おでこにキス。4、目尻にキス。3、鼻先にキス。そのくすぐったさに身を捩っているあいだにもどんどんカウントダウンは続行していく。2、頬にキス。そして1。耳に唇を寄せると同時に、お誕生日おめでとう、と至近距離で囁かれ、ありがとうと答える間もなく唇を重ねられた。