peach jam × Hayato Shinkai

「お疲れさん」


急に視界に現れたホットコーヒーに目を丸くさせながら視線を動かすとそれを持って穏やかに微笑む新開と目が合う。あぁ、新開か。ありがと。そうお礼を述べながら差し出されたコーヒーを受け取ると、「悪いな、期待した相手じゃなくて」とニヤリと笑われた。「…新開はいつも一言余分だ」「やっぱり図星か」自分のぶんのコーヒーを飲みながらちらりと上目遣いで私の表情を確認して、ふ、と新開が空気を緩めて笑う。分かってる。こういうとき追いかけてきて声をかけてくれるのはいつも決まって新開だ。あのひとじゃない。わざわざ言われなくたって分かってるのだ。痛いほどに。


「本当に新開は一言余分」
「余分ついでに一つ言っていいか」
「ダメ」
「なんだ、言わせてくれよ。ケチだな」


ちらりと横目で新開の顔を窺うと、彼は首を微かに横に倒して拗ねたように唇を尖らせて笑っていた。かわいこぶるな、ばか。新開のそういう笑顔はぜんぶ見透かされてるみたいでいやだ。目を合わせたくなくて目を伏せたまま黙々とコーヒーを喉に流し込んでいたら「そんなに必死で避けてても時間の問題だと思うぞ」とくすくす笑い声が降ってきた。そういうことを当事者があっけらかんと言わないでよ、反応に困るじゃないか。少しずつ声が近付いてくるのに気がつかないフリをして俯く。「俺に言われてしまったら揺らぐから避けてるんだろ。…これも図星か?」どんな反応をしたって結局ぜんぶ見透かされるのに、どうしたらいいって言うのよ。だんまりを決め込んで無視していたら「動揺が顔に出てるぞ。のそういうとこけっこう好きだよ」とまた笑われた。……だから、一言余分だっての!